静電容量無接点方式μTRON配列の自作キーボードを作りました

μTRONキーボードも作りたい…

また、TRON配列の自作キーボードを製作した話です。
TRONキーボードの18mmピッチ16mmピッチと製作してきたので、静電容量無接点方式のスイッチを採用しているμTRONキーボードベースの自作キーボード、”micro TL Split Keyboard 18mm Rev1“を製作しました。

静電容量無接点方式のキーボードと言えば、東プレ株式会社RealForceや、そのスイッチを採用した株式会社PFUHappy Hacking Keyboardが有名ですが、これらのメーカからは分割型キーボードは出ていませんでした。
アンケートやファンミーティングなどでも度々要望は出ており、企画や開発の方もそういった要望があることは認識されているようですが、分割型キーボードはフルサイズキーボードに比べるとニッチな製品になり、かつ製造に必要となる金型や部品なども増えてしまうなどコスト的に厳しいため、未だに製品化されていません。RealForceやHHKの価値が認められ、3万円台のキーボードでもきちんと製造・販売され続けているのは凄いことですが、分割型にすることで価格帯が上がった場合、一時は売れても永続的な製品になるかが難しいところです。
μTRONキーボードの場合、5万円という価格ながら売れましたが、2017年には販売終了になりました。なかなか、継続販売し続けるのは難しくなる価格帯です。

このような状況なので、静電容量無接点方式のスイッチを採用した分割型キーボード(さらにできればTRON配列)が欲しいとなると、TRONキーボードと同様に自作キーボードとして製作する以外には道がありませんでした。

TRONキーボード自体については、自作TRONキーボード製作については、「TRONキーボードを作ろう」や「TRONキーボード製作のあれこれ」で散々書いていますが、TRONキーボードにはいくつかバリエーションがあり、μTRONキーボードもその一つです。

μTRONキーボード津軽塗バージョン

μTRONキーボードは、1989年に坂村健先生が『TRON キーボードをできるだけコンパクトにしてノート型のパーソナルコンピュータにも搭載できるように設計』されており、その時の図面をベースに2007年にパーソナルメディア株式会社から発売(現在は終売)されています。
1989年のデザインで既に17mmピッチとなっており、ノートPCに搭載可能なよう、キーの物理配置はコンパクトになる水平垂直方向として、従来の物理配列に近いキーボードとして設計されたようです。製品版開発時、コンパクトで持ち運べるようにと、分割キーボードになっており、ポインティングデバイスは省かれています。左右でキーキャップが対称になっており、エンターの部分が普通の逆L字ではなくL字型なのが特徴です。

静電容量無接点方式の自作キーボードの機運

静電容量無接点方式の自作キーボードとなると、まず部品が既存キーボード(RealForceかHHK)を解体しないと手に入らず、かつ静電容量を検出する回路が必要となるため回路設計も複雑になるということもあり、なかなか製作する人が出てきませんでした。

そんな中、銀鮭(@shirojake)さんと、せきごん(@_gonnoc)さんが、ブレークスルーされていきます。
銀鮭さんが「静電容量スイッチで自作キーボードを作る本」と「真の静電容量キーボードを作る本」、せきごんさんが「静電容量式自作キーボード設計資料」を出され、基本原理から製作方法まで解説されることで、一般の自作キーボードキット製作者でも製作できるようになりつつあります。
自分も、上記の本を全て買って検討を進めていました。
ちなみに、静電容量無接点方式の自作キーボードキットは、上記のお二人が出された静電容量Helix(early bird)Corne ECWL 静電容量式自作キーボードキットmeEC keyboardGRS-70EC 静電容量式自作キーボードキットとありますので、お勧めです。

部品も、謎の静電容量無接点方式キーボードを製品化しているNiZ社のNiZ EC Switchが入手できるようになったり、遊舎工房さんやビットトレードワンで「静電容量スイッチ4点セット」や「静電容量ラバーシート」が入手できるようになってきています。

さらに、せきごんさんが「静電容量スイッチスキャン用モジュール」を製作されたため、細かな表面実装部品を実装するという難しさもクリアされつつあります。
動かなかったらどうしよう…という不安感が払拭できたので、せきごんさんの 「静電容量スイッチスキャン用モジュール」 を採用して作ってみることにしました。

設計方針

設計方針としては、なるべくμTRONキーボードに近づけるということを目指しています。
1989年のデザインでは、左側奥から3段目左端、右側奥から3段目右端が1.75uとなっていますが、TRON配列だけでなくJIS配列を利用可能とするため、左側奥から3段目左端と右側奥から3段目右端のキーを0.75uにすることで、JISかな「む」のためにキーを追加しているようです。
本当は販売されたμTRONキーボードベースにしたかったですが、0.75Uのキーはハウジングサイズから不可能なため断念し、3段目の左右外側にあったキーについては、6段目親指の内側に移設しています。結果的に、オリジナルなデザインをベースにしたと言い張れなくは無いです。

デザインμTRONキーボードベースの長方形形状。
習作のため、こだわらない。
キー物理配列1989年のμTRONキーボード図面ベース。
本当は販売されたμTRONキーボードベースにしたかったが、
0.75Uのキーはハウジングサイズから不可能なため断念し、
3段目の左右外側にあったキーについては、6段目親指の内側に移設。
キー論理配列 TRON配列(英文Dvorak配列)を基本とする。
まずは、Qwertyでの実装を先行する。
キー数76
形状左右分割。TRRSケーブルで接続前提。
傾斜足のスペーサー長さで再現。手前10度。
キーキャップ16mmピッチ対応のもの。
TEX ADA ABS 0.8Uブランクキーキャップを当初は採用。
TL Split Keyboardのシリンドリカル・ステップスカルプチャキーキャップをベースにキーキャップを製作予定。
キースイッチ静電容量無接点方式。
ハウジング、プランジャー:NiZ ECスイッチ
コニックリング、静音リング:静電容量スイッチ4点セット
ラバーシート:静電容量ラバーシート
※RealForceの打鍵感を再現したい場合は、RealForceを入手しコニックリング、ラバーシートを使用可能
キーピッチ18mmピッチ(本当は、17mm or 16mmピッチにしたかった…)
※現状入手できるNiZ ECスイッチハウジングでは、
キーピッチが最小で18mmピッチになってしまうため。
静電容量スイッチ4点セットハウジングは外形が18.4mmなのと、
精度が低いという情報あり不採用。
キーストローク4mm(たぶん…)
キー押下力40-45gくらい?(ラバーシートに45gと記載はあるが…)
ケース、外形TL Splitと同様にアクリルでトッププレートとボトムプレートを制作。
ユニット片側/W:170mm×H:160mm×D:未定
本体重量未定
マイコンProMicro
※そのうちSTM32L486+μT-Kernelにしたい…
静電容量検出せきごんさん「静電容量スイッチスキャン用モジュール」を採用。
静電容量検出回路自体を自製した基板も設計中ではあるが、
キット組立で表面実装部品の半田付けが不要になるため。
EC Microが出るのであれば、そちらに対応した基板に変更したい。
ポインティングデバイス持ち運びを考慮し、コンパクトにするため搭載しない。
無線化対応初めてなのでしない。
どうしても無線化したい人には、「USB2BT Plus」を使って貰う。
設計方針まとめ


キーピッチなど、かなり妥協した部分もあるので、もしNiZ ECスイッチよりも小さなハウジングを製作できる方が居れば、ぜひ相談させてください!

KiCadでの基板設計

まず、KiCadで基板を作成します。
途中までは、静電容量検出回路を自分で表面実装する前提でマルチプレクサとオペアンプなどの実装と配置を進めていましたが、「静電容量スイッチスキャン用モジュール」を採用することに決めてからは、必要な部品としてはProMicroとTRRSコネクタ、モジュールのためのスルーホールだけで、後は静電容量スイッチ部分のアートワークをしていけばOKでした。ただ、普通の自作キーボードの回路と違って、ノイズを抑えるためにスイッチ側(表面)にあまり配線をせず、裏面側に距離を空けて配線しているので、少し配線が面倒でした。また、ノイズ対策でベタグラウンドを両面全面にしてから、両面のグラウンドを繋ぐスルーホールを配置しています。

KiCadで基板データ作成

完成してから気づきましたが、配線による相互容量を少なくするため、せきごんさんの本で「ドライブラインとセンシングラインを平行に這わせない」と守るべき基本点が紹介されていたのに、それを守っていない箇所がありました…。
まぁ、足下動いているから良いけど、本格的にキット化する際にはここら辺配線を見直そうと思います。

プリント基板

プリント基板はいつものようにelecrowに注文したのですが、春節明けでスキルが下がっているのか、傷がかなりあって、青いマジックで傷を誤魔化しているところもありました。5cmあるひっかき傷や、青いレジストが2mm四方で剥がれているところもあったりして、いまいちな仕上がりでした。もう少し、なんとかして欲しいレベルです。

基板が届いたら、早速動作確認してみます。
せきごんさんのGRS-70EC向けのスキャンプログラムを参考に、ProMicroの接続箇所やキーマップについて変更してQMKFirmwereをコンパイルすればOKでした。
こんな簡単に作れるモノなんだろうか?と動作確認するまで思ってましたが、きちんと動いたのでかなり感動します。

アクリルケース

ケースは、TL Split Keyboardと同様に、アクリルのトッププレートでスペーサーを足にする前提です。本来であれば、ノイズ対策でもう少し基板に触れないようにした方が良いかもしれませんが、試作版なのでこだわらないことにしました。

アクリルは、いつものようにelecrowに注文したのですが、通常の工期で届かないので自分でカットしてみることにしました。
ただ、アクリルカットを手でやるのはしんどいので、ホームセンターのカインズで、自由に工作機械が使えるカインズ工房のレーザーカッターを利用してみました。
事前に検索して出てきたレーザーカッターの使い方で予習した上で、Illustratorでトッププレートを製作します。
久々にIllustratorを使ったのですが、以前より使いやすくなっていて、30分もかからずにカットデータが作成出来たので良かったです。

カインズ工房

カインズ工房では、会計を済ませると後はマニュアルを見ながら自由に使ってくださいというスタイルで、その場で買ったアクリル板をセットして早速切り出します。

レーザー加工機 機種はtrotec speedy300


アクリルのセット位置や、データの印刷設定、レーザーの出力設定といったところで多少失敗して2枚程無駄にしてしまいましたが、左右分の2プレートを作成することができました。

アクリルカット完了

ただ、レーザーカッターの使用料金は高くて30分2500円とかかるので、通常の試作であればアクリルカットサービスに依頼するのが安くて良いと思います。
どうしても、自分で早く作りたいという今回みたいな時には便利ですが。

組立

トッププレートにNIZ ECスイッチのハウジングをはめて、そこにプランジャーをはめ込み、ラバードーム、コニックリングを載せていきます。
ラバーシートは、フルサイズキーボード向けのラバードーム配置になっているため、1つずつ切っていく必要があります。

組立作業

ラバーシートが伸びて切りづらいので、かなり面倒な作業でした。
全部配置したら、スペーサーを取り使えたトッププレートに裏返した基板を上から載せて、スペーサーの足で固定します。ラバードームをハウジングより小さく切ってしまったので、4.5mmのスペーサーだと少し隙間ができてしまうので、4mmのスペーサーに0.1mmずつ足していくのが良さそうです。

Rev0完成!

ついに、静電容量無接点方式の自作キーボードであるmicro TL Split Keyboard 18mm Rev0が完成しました。

micro TL Split Keyboard 18mm Rev0

静電容量無接点方式のμTRON配列、分割・狭ピッチ自作キーボードと、属性では最強感があります。

micro TL Split Keyboard 18mm Rev0 キーキャップ無し アップ
micro TL Split Keyboard 18mm Rev0 キーキャップ無し

打鍵感は、まさに静電容量無接点方式といった柔らかさです。
ただ、ラバーシートの切り方の問題か、45gというスペック値よりも重い感触です。最近、仕事やプライベートではタクタイル62gのOUTEMUサイレントフォレストを使ったTL Split Keyboard 16mm Rev1を使っているのですが、それよりも重い感じがします。底打ちするような打ち方なので、底打ちした時の振動やらで重く感じるのかもしれません。
ひとまず動いたので、普段使いするには問題ないレベルになりましたが、回路のアートワークでは改善した方が良さそうな箇所もあるので、修正版の基板を作ろうと思います。それができたら、Rev1を自作キーボードキットとして配布することも視野に入れようと思います。

Rev1完成

Rev0では、静電容量検出回路でノイジーな点があり、右手側の一部キーの動作が不安定だったのと、ハウジングの固定が不十分で一部ハウジングが浮いてしまうところがあったので、基板を作り直しています。Rev1では、ノイズを極力抑えるような配線にしたので静電容量検出も安定し、縦中間の左右両端に固定箇所増やしたのでハウジングもしっかり固定されるようになっています。

DES-DOMES BKE Tactileの35g(Tiffany)

さらに、ラバードームについてはBTOの静電容量ラバーシートから、遊舎工房さんで入手可能なDES-DOMES BKE Tactileの35g(Tiffany)に変えています。

micro TL Split Keyboard 18mm Rev1

この変更が見事に効いて、静電容量無接点方式ならではの打鍵感となり、非常に良い感じです。静電容量無接点方式のキーボードは、ラバードームとケースの剛性で全てが決まるような印象になりました。

Rev1が安定して動作することが確認できたので、micro TL Split Keyboard 18mm Rev1をBOOTHにて自作キーボードキットとして配布しています。

静電容量無接点方式自作キーボード設計ノウハウ(随時追加)

  • 打ち心地には、ハウジングを固定するトッププレートの硬度・強度が非常に重要。
    柔らかめのアクリルプレートを使用した際に、たわんで打ちづらかった。
    メカニカルスイッチよりも、トッププレートの金属(ステンレス)化が有効。剛性が重要。
  • アクリルがたわまないように、トッププレートとPCBのネジ止め箇所も多めが良さそう。
  • キー配置は、MatrixやColumn-Staggeredだと配線しやすい。
    ※micro TL Splitは、Row-Staggeredだったので、若干面倒だった…。
    Row-Staggeredの場合、静電容量スイッチのフットプリントを90度回転させれば良かったと、これを書きながら気づく。
  • 静電容量スイッチだと、スイッチ(orスイッチ用ソケット)とダイオードの半田付けが不要になるので、キットの組立が楽になる。
    ※ただし、ラバーシートを切ってラバードームを作るのは面倒…。
  • (体感ではあるが)ルブはやってもあまり変わらなかった。NIZ EC Switchのハウジングとプランジャーにルブしてみたが、特にキー打鍵感や打鍵音は変わらなかった(ように感じる)。

今後に向けて

TL Split Keyboardの静電容量無接点方式バージョンも作ってみたいなと思っているのですが、NIZ ECスイッチで可能な最小ピッチが18mmなので、18mm版しか作れないのが悩ましいところです。
自分の手には16mmピッチのTRON配列がベストであるので、どうせ作るなら自分が使いたい16mmピッチにしたいですし、そうなるとNIZ ECスイッチのハウジングが使えなくなるので、ハウジングを3Dプリンタで作るか悩んでいます。ハウジングに必要な形状精度を考えると射出成形した方が良さそうですが、お金がかかりすぎるので、なんとか3Dプリントサービスでできる方法を考えたいと思います。

この記事は、micro TL Split Keyboard 18mm Rev1で作成されました。

謝辞

静電容量無接点方式の自作キーボードを切り開いて、 ノウハウを共有・キット化などしてくださった、銀鮭(@shirojake)さんと、せきごん(@_gonnoc)さんに改めて感謝いたします。
ありがとうございます。

WordPress.com でサイトを作成
始めてみよう
%d人のブロガーが「いいね」をつけました。